全日本コーヒー商工組合連合会

2016.11.29

インタビュー特集②京ブランドを世界へ!

全日本コーヒー商工組合連合会

「京ブランド」取り組みへの経緯

沖永:今年で「京ブランド食品認定制度」も10年ぐらいになります。 京都の代表的な漬物や京菓子その他。特に漬物や豆腐は他府県から「京風○○」と称するものが沢山出回っていました。「これが京都のものだと思われるのは嫌だな」となり、「じゃあ、ちゃんとした商品をつくり、きちんと規格もつくりましょう。」ということが、制度のスタートでした。コーヒーは制度立ち上げから2年後に加わったわけです。

「京ブランド食品宣言」というものがありまして、宣言には

「京ブランド食品」は
1.山海里の恵みを京都で育んだ伝統の技と叡智で作り上げました。
2.作り手の心を尽くした感性が食べる人へ鮮明に伝わります。
3.安心・安全とともに「ほんまもん」を届けます。

とあり、シンボリックなマークをつけて、ちゃんとした認定食品にしましょう。認定もきちんとした手続きを踏んでやりましょうということになりました。 京都で生産されているということがブランドの大元となってスタートしています。まず本社、および工場が京都にあることが大前提。原材料についても出来るだけ京都のものを使いましょうということになっています。

「京ブランド食品宣言」

畔柳:それは、パッケージの話でしょうか?コーヒーの場合、原料は海外のものですよね。

沖永:原料です。まず「できるだけ京都のものを使いましょう。」とされています。でも、「お豆腐屋さんが、ぜんぶ京都の大豆でいけるか」というと、そう言い切れないわけです。 「京都の伝統のものだけ」みたいになってしまうと、ほとんどの食品が対象から外れてしまいます。該当するものが少ないのです。 そのため、次の段階で「国内産であるか」など、広がりをもたせながら、各組合が規定を作りあげていきます。

畔柳:そうですよね。京都に限定するとコーヒーは外れてしまいますね。

沖永:京ブランド食品認定の規定には「できるだけ京都のものを使う」とされているので、各組合の内規で「どこまでのものを使いましょう」という取り決めをしているわけです。 認定の審査会では、京都珈琲商工組合の定めた内規が、京ブランド食品の基準に適合しているかを徹底的に聞かれました。そこで「コーヒーの原料って、ぜんぶ外国のもの」みたいな話になるわけですね。

本審査会の様子

畔柳:どうやって、そのピンチを切り抜けたんですか?

沖永:「自分のところで、「ほんまもん」を作っているか?」「安心・安全を担保できるか?」「京都の人たちにどう貢献をしているか?」という事を問われました。それをクリアの条件でした。 京都珈琲商工組合が定めた内規が「安心・安全が担保できていて、京都のひとに貢献している」と認められ、審査にかけてもらえたわけです。

京の珈琲の特徴とは

畔柳:京の珈琲には、どのような製品があるのですか?

沖永:京ブランド食品として開発する「京の珈琲」は小売商品に限定して、京都のお客さんに親しまれるコーヒーにしようということになりました。

あまり厳格に規定してしまうことで「ウチの市場では売りづらい」とならないよう、パッケージデザインとネーミング、豆であるか粉にするか、グラム数なども各社にお任せしました。 組合が規定したのは、京ブランドマークをきちんと付けることと開発する商品の基準。「優雅な香り」「上品な口当たり」「程よい飲み応え」「爽やかな後味」をベースに作り、それを謳いましょうということになりました。

具体的には、まず各社が卸しているコーヒーの中で、一番京都で飲まれているコーヒーをそれぞれチョイスしました。そして、豊かな風味とされているアラビカ種のコーヒーだけとしました。そうやって作り上げたのが京ブランド認定コーヒーです。京都の小川珈琲の味であり、他社さんの味でもあり、それぞれの商品には各社の特徴が出ていると思います。

それと安心・安全を担保するために官能検査資格を持ったメンバー(複数社)を登録し、組合独自の官能検査基準を設けて、検査に合格した商品を認定するようにしました。

本審査会の様子

JANコードって何ですか!?

沖永:当然のことですが、同じ京都の地で商売をしていれば(お互いに)切磋琢磨しているわけです。僕も組合の活動をほとんどしていなかったものですから、一緒にやるなんてことは、ほぼありませんでした。 今回の話で、当時の専務理事の一刈さんやキョーワズコーヒーの辻さんらが「面白いからやろうよ」ってことになり、(自分が)「じゃあ、まとめましょう」と、全組合員さんに集まっていただき、京ブランド食品認定制度について説明をした訳です 。

畔柳:どんなプロジェクトも、立ち上げ時には御苦労があると思いますが。

沖永:京ブランドコーヒーを小売商品として販売するためには、一括表示やJANコードを設定しなければならなりません。 小売卸をやっている会社や喫茶店卸だけをやっている会社が一緒に、小売商品を開発するわけですから、喫茶店卸だけをしている会社から「JANコードって何ですか?」「一括表示?」となり、「じゃあ、JANコードの取り方を教えましょう。一括表示はこのように記載してください」ということになりました。

畔柳:手詰で袋詰めしてセロテープで止めて、喫茶店さんやレストランさんに届ける仕事しかしていない会社もいたわけですよね。

本審査会の様子

沖永:そのため、JANコードと一括表示はしっかりとつけましょうと、コードの取得方法と法令を遵守した一括表示の作り方については徹底的に説明しました。

またブルーマウンテンとかブランド特化させたいという方が、そのことを強調したいわけですね。そうしたときに、優良誤認を与えないかを特に注意してもらいました。 たとえば、原材料の一部にブルーマウンテンコーヒーを30%以上使用していれば、ブルーマウンテンブレンドとして販売できます。けれども、「配合どうなっていますか?」と尋ねると、他の生産国のコーヒーが40%入っていることがありました。

ブルーマウンテンが30%入っているからということで「これで、一括表示の中でブルーマウンテンが一番目にくるわけですね」と仰るので、「いえいえ、違いますよ。これは配合割合の多い順番で書かな駄目ですよ。書き直してください」ということをやりながら、認定審査にかけるわけです。

畔柳:組合内での、審査前のご準備も大変だったと伺っています。

沖永:外部審査にかけるにあたって、システム上『内部監査』つまり、組合内でも外部審査員を入れて、内部監査をする必要があるわけです。審査前に、もう一回、自分たちで全部チェックしあいました。

畔柳:JANコードを使わない、喫茶卸さんはすごく勉強になりましたね。それが小売の世界でスタンダードであることを知ったわけですから。裏面の生産国表示も「あぁ、違ったんだ」と初めて気づいた方も結構いらっしゃったんでしょうね。

沖永:そうですね。それと優良誤認の範囲みたいなことを話していくと、「じゃ、やっぱりこれは書かないほうが良いよな」と法令遵守が大切であることが理解していただきました。 一番良かったのは「喫茶店卸しかされていないところが、小売卸ができるトビラを開くことができるようになった」という点ですね。

珈琲組合内の官能検査風景

企業間の壁を越え、全員が品質管理に取り組む

沖永: 官能検査(京ブランド認定コーヒーでは最も大切な審査)を公平にするために、出来上がった製品ではなく挽く前の豆のまま持ってきていただいて、その配合比率を見ながら、その場でブレンドしてもらいます。皆、その豆がどこの生産国のものか大体分かりますから、その配合どおりなっているか、そこで挽いて飲んで、「これはおかしい」みたいなことが、やっぱりあるんですね。 例えば、このモカが駄目ということで「もう一回、作り直してください」とお返しします。作り直してきて、駄目ならもう一回、二回ほどやり直すこともありました。

畔柳:それは、例えば「モカが配合の中に含まれていて、トータル的なブレンドとしてダメージに近いだろう」ということですか?

沖永: ダメージとか古いとか。よく聞くと、「そういやだいぶ前の…」「じゃあ、もう少し新しい生豆を使ってください。」と。もっと言えば、「これはいつ輸入された(買われた)生豆ですか?その証明書もつけてください」と全て確認させていただきます。 そういうことをしながら、我々も、官能検査を厳しくおこなってきました。 ブレンドとしても良くないものは、納得のいくまで何度も官能検査を続けたこともありました。

「みんなで飲む」ことの意味

畔柳:それも大きいですね。自分たちの作ったコーヒーを客観的に、お客さんが評価するのではなく、他社が評価して、その人たちが自分のコーヒーをどう評価するか。という場ができたということですよね。

沖永: 京ブランド認定コーヒーの基準に合うよう、真剣に取り組んでいただきました。それぞれコーヒーに関する資格を持っていますが、「みんなで飲む」ということは、あまり無かったんですね。

資格を持っていない方も含めて、「じゃあ、一緒にやろうよ」って言うことになり、集まって官能検査をしました。「こっちで言っていることが正しい」とか、「そのことが理解できる」とか話をするうち、(全体の)官能検査のレベルが高まっていきました。京都珈琲商工組合が作った内規には、官能検査の勉強ができることも、ひとつの目的としてあったんです。

畔柳:まさに、京都珈琲商工組合の活動の中の『勉強会』ですね。 「勉強する材料として『京ブランド』を使ったり、それにプラスアルファして自分のところの商品を持ってきて、一緒にカッピングしてもいいでしょう」という話になれば、完全に勉強会になりますね。 それを、他社さんの各リーダーさんが官能したコメントを聞いて、自社に持ち帰り高品質な商品づくりにつながれば全体(のレベル)が上がりますよね。

沖永:恐らく官能検査をやらなかったら皆さんで擦り合わせをするために集まるところが無いわけですね。だから『京ブランド』をやりだして本当によかったと思っているんです。

外部審査会での試飲会

今後の課題とインバウンド

畔柳:「京の珈琲」シリーズの売れ行きは如何でしょうか。

京都館

アイテム

沖永:八重洲口の京都館に、「京ブランドコーヒーを販売させてほしい」と頼んでみました。組合員に聞くと、何社か手を挙げてくれました。売り場に3、4ヶ月並べ、「お好きなものをどうぞ!」と(笑)。

そうすると、各社さん偏りなく売れるんですね。ネーミングもデザインも全部バラバラ。京ブランド認定コーヒーを共通の販売タイトルにして、各社さんほぼ同じぐらいの量を販売しました。京ブランド食品としての力を実感しました。

畔柳:それは興味深いお話ですね。

沖永:皆さん、異口同音に「売れますよね」と言ってたんです。ただ(地元に)戻ってくると…京ブランド食品全体の売り場所が見あたらない。他業種も含む京ブランド食品のコーナーが無い。このあたりが、今後の課題になりそうです。

畔柳:いまは、どのように対応されているのですか?

沖永:小川珈琲の事だけを言えば、「京都よりも他府県で売っていこう」という方針を立てました。特に首都圏。「京都には小川珈琲のコーヒーがたくさんあって、まだまだ、京ブランドのコーヒーはいらないよ」と(笑)。 ところが、ここにきて外国の方が京都に大勢来られるようになり、あの方々をターゲットにしようとお土産品やホテルで提供されるコーヒーとかそのような形で売ろうかなということになりました。お土産屋さんに並ぶので、一般の商品とはバッティングしません。

畔柳:パッケージ作りなど、京ブランドが対象とするマーケットは、一般市場とは別に設定してスタートしていたからですか?

沖永:最初は、(通常小売商品の)横でもいいからいこうという感じでやっていました。いま、一番要望が多いのは、ホテル・レストランさんが、「京都という、一つのくくりでやりたい」というのが増えてきているようです。 たとえば、「地産地消でやりましょう。」とホテルさんが京都の農産物を使った料理を作ると、(野菜以外の食材でも)京都を謳っていきたいというという声があるようです。「コーヒーにも京ブランドがあるのか」という問い合わせも増えてきました。 ところが、「京の珈琲」は、小売商品としてしか開発していないので、(厳しい規定のなかでは)喫茶店やレストランのなかで簡単には京ブランド認定マークが使えないんですね。このあたりも今後の課題です。

試食・宣伝

畔柳:道のりはまだ半ばで、まだまだやるべきことが沢山あると?

沖永:京ブランドだから売れるじゃなく、「自分たちが、どう育てていくのか」という目線で、しっかり掴まえていかないと、絶対に売れないんですね。 「京ブランドだから、売ってもらえる・売れるであろう」という期待だけでは思い違いになってしまう。 これからインバウンド、特に京都の中でいろいろな外国の方をターゲットとしてマーケットが広がっています。フォローの風が吹くかなとは期待しています。 本当に京ブランドをやって本当によかったのは、京都珈琲商工組合、皆さんの視野が広がって販売チャンスが増え、生産やものづくりの技術が上がり、販売のハードルが下がって販路が広げられるところまで持ってこられたこと。 組合員の方々も京ブランド認定コーヒーだけではなく、色々な小売市場に向けて頑張っておられます。

畔柳:確かに、組合員の方々の自社製品作りや新規市場の開拓にも役立ちそうな活動です。最後に組合の活動についてお聞かせください。

沖永:(コンビニの)カウンターコーヒーひとつとっても、市場は広がっているはずなのにロースターはほとんど関われておりません。 今後は、ロースターとして新しいビジネスモデルを創ることで発展し、組合が後押しをし、新たなロースターが参加できることで組合全体が活性化すると思います。もはやロースター内で競争している時代ではないと思います。

今回の話も、組合としてきちんと取り組み、共通の話し合いができたことが大事で、それによって組合全体のレベルが上がってきたことは良かったなと思っています。 業界として皆が共同して切磋琢磨して発展できるようなものに取り組むことが大切で、組合に入る一番の大きなメリットだと思います。

畔柳:本日はどうもありがとうございました。

沖永氏と畔柳氏

沖永 憲生 氏

小川珈琲株式会社 現 取締役

小川珈琲株式会社 現 取締役 沖永 憲生 氏

京ブランド食品認定取得チーム 初代リーダー
1949年 京都府生まれ
1975年 大学院卒業後 製薬会社に勤務
1983年 小川珈琲株式会社に入社
営業部、商品開発部、生産部を歴任する
1999年 取締役に就任
2015年 取締役退任
2015年11月より監査役に就任

京ブランド食品推進事業とは

京ブランド食品推進事業とは

京都府食品産業協会の主催。 高い品質や伝統に裏打ちされ、日本の食文化を代表する京ブランドにふさわしい食品を「京ブランド食品」として認定することにより、他産地との差異化を図り、もって京都府内の食品産業の振興及び観光への寄与を目的としている。 京都珈琲商工組合では、6社 18商品 27アイテムが「京の珈琲」として京ブランドに認定されている。

- 株式会社アマノコーヒー(2商品 2アイテム)
- 小川珈琲株式会社(6商品 8アイテム)
- キョーワズ珈琲株式会社(5商品 9アイテム)
- 中川珈琲株式会社(2商品 2アイテム)
- マルトシ珈琲株式会社(2商品 2アイテム)
- 株式会社ワールドコーヒー(1商品 4アイテム)
(2015年12月現在)

<インタビューした人>

インタビューした人 畔柳 一夫

畔柳 一夫(くろやなぎ かずお)
AJCRAホームページ委員長

文化と歴史と自然を今も色濃く残る京都には、今もその伝統を守り、引き継ぐ職人の技と感性があると感じました。 インタビューを通して、京ブランドもその職人達が作り出す、「食」の結集だと理解しました。 「和」のイメージが強い中、コーヒーという外来品との融合のお話や各社のコーヒー職人の京ブランドに対する周知の徹底などから生まれるコミュニケーションが更なる各社の力になったことを知りました。

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